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執筆者の写真【事務局長】岡田 光輝

雑煮のあれこれ

我が家の雑煮は関東風と呼ばれるものだろうと思う。こういうテーマであるなら帰省に際して聞いておけばよかったと思うのだが、どうもそれだけのために便りをしようとは思わぬから、確かなことはわからない。


鰹の削り節で取った出汁に、濃口の醤油の味付けだったろうと、おぼろげな幼少の記憶をたどってみるのだが、あとはといえば、どういうわけか何時も一緒に供されるきんぴらごぼうと、手前勝手にやっている般若湯の方が頭に浮かんでくるからそれで終いである。


民俗学的には三が日のハレ*1の食物ということなのだが、「雑煮」という名であるのは一般名称だからであろうか。なんでもこの年頭の祝膳の名に「雑」煮の語をあてたのは本来ではないらしく、中世以降の變化であろうとのことで、辞典には「不自然な名称」とまで記述がある。


そも正月一日というものの捉えようにも變化があったらしい。随分前は、一日の境というものは、夕日のくだちにあった。もっぱら年越しの祝儀というものは、大晦日の晩の食事を以てなされたようである。歳神を祀り、ハレの食事を供す。無論それは、家の者たちのためでもあったろうが、それだけではない。神前に供された、即ち神饌であったというわけである。


この神饌を夜が明けて元日二回目の食事に下して食べた。九州では、直會(ナオラヒ)と呼ぶところもあるようである。「直會」は、神に供えた飲食物を祭りに参加した者で分け、食すことを言うのであって、つまるところ、「雑煮」もそういうものであったというわけだ。


全国津々浦々に雑煮の形があるのも頷ける。供えるものが、餡餅なのか角餅なのかあるいは、といった具合で、各地の違いが生まれたのであろう。


我々現代人にとって、これを意識することもそうあるまいと思うのだが、幾許か注意して眺めてみるだけでも、そのハレとケの往来の中に、自らのアイデンティティを発見することができるかもしれない。


残念ながら私の思い至ったことと言えば、最早年中行事である寝正月に過ぎないのだが。


【参考文献】

 財団法人民俗学研究所 編(1951年) 民俗学辞典 東京堂出版

*1「ハレ」と「ケ」

ハレは、祭りや行事などの非日常をいい、ケは日常の生活を指す。

晴れ着や、晴れ舞台といった表現はこの概念からきている。

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